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うしあたまのロパ



大みそかの夕方、ロパはおじいちゃんの家にいた。
みんな正月のじゅんびに大忙しで、だれもロパの相手をしてくれない。妹のちびリウの髪をひっぱってみても、いいこのちびリウはロパを無視したまま、おばちゃんの洗う皿をはじからふく仕事をつづけるばかりだ。五回ほどちょっかいを出されると、リウはついにママに言いつけに走っていき、ロパはおじいちゃんのやねうら部屋に閉じ込められてしまった。


やねうら部屋は暗くてほこりだらけだった。とても静かで、耳をすますとキッチンのお皿のぶつかりあう音やおばちゃんたちの歌声が聞こえた。
そのとき、ロパは部屋のどこかから誰かに見られているような感じがした。それは、部屋の隅につみあげられたふるい本の上にあった。とても大きく毛だらけで、短くてするどい角が二本はえているそれは、チキンバッファローのあたまのはく製だった。チキンバッファロー狩りはとても人気があったし、ロパのおじいちゃんは狩りの名手だった。その小さなガラスの目は、ブラインドの間からかすかに入ってくる夕方の光を反射して、静かにロパを見つめていた。

ロパはゆっくりとあたまに近づいていくと、そうっとその黒くてかたい毛にさわった。もちろん、ロパは死んだどうぶつのあたまがそれに反応しないだろうことは知っていたけれど、ロパの手がそれにさわった瞬間、小さなため息が聞こえたような気がした。それがおこったのはあまりにも突然ではっきり思い起こせないけれど、つぎの瞬間、ロパはうす暗いやねうら部屋のすみに立ち尽くしていた。チキンバッファローのあたまをかぶって。
ロパはとんでもなくびっくりして、チキンバッファローのあたまをつかんで引きはがそうとしたけれど、それはすっかりロパの頭にはまって、まるでもともとそこにはえていたかのようだった。しばらくひっぱったりふってみたり、ためしてみたけれどつかれてしまって、ロパは古いトランクの上に座りこんだ。しばらく息をしずめていると、なにかむずむずとおかしな気持ちがおなかからわいて来た。くすぐったくて、おかしくって、もうおどりだしてしまいたいくらいだった。で、ロパはその通りにした。

ロパは自分でも信じられないくらいの力でやねうら部屋のカギをこわしてドアをけやぶると、おどりながら階段をかけ降りた。そのあいだ中、「カイブツトースターの復しゅう」のメロディーをくちずさんでいた。

キッチンでは、みんなが陽気にせっせとはたらいていた。ロパはいよいよ楽しくなり、ママのうでをとるとくるくると回した。「カイブツトースターの復しゅう」がキッチンにどんどん大きくひびいた。笑い声も歌もやんでしまい、かわりにみんな悲鳴を上げだした。全員が全員キッチン中をかけまわり、オーブンのなかにかくれようとするもの、食器だなのかげにとびこむもの、ナイフやめん棒をふりまわすものまでいた。

「ちがう、ちがう、わたしよ」

ロパはけんめいにどなったが、かわりに口から出て来たのは低くて恐ろしいうなり声だった。パニックはつづいていた。そこに、ロパのおじいちゃんがキッチンにとびこんで来た。手にはライフルを持っている。ロパは、ライフルの銃口が自分に向けられていることに気づいた。正しくは、ロパの頭にかぶさってる、チキンバッファローのあたまに。

考える間もなく、ロパは家から飛び出した。走って、走って、もっと走った。森のなかはもう暗くなりかけてていた。森の反対がわにあるモモンガ池にさしかかるまで、ロパはとまらずに走った。つかれていたし、恐かった。水を飲もうとひざまづいて水面にのり出すと、大きなチキンバッファローのあたまが映ってロパを見返していて、そのまわりには一番星がキラキラしていた。
大みそかの夜が来ていた。だれもがあたたかい部屋で家族や友だちとごちそうやワインを楽しんでいるはずだった。ロパは木のうろに古いたぬきの巣を見つけて、そこにもぐり込んだ。泣きつかれて、おなかのなるのを聞いているうちにロパは、ねむり込んでしまった。

「ロパ!ロパ!!」

ロパは、ドアをたたく音で目が覚めた。だれかがよんでいる。「たぬきの巣に、ドアなんてあったかしら?」と思うのと、おじいちゃんのやねうら部屋の床に起きあがるのが同時だった。となりには、チキンバッファローのあたまが転がっている。

「もうすぐ夜中よ、ロパ!はやく、カウントダウンのココナツダンスをはじめないと!」

ちびリウの声だった。ロパはいそいで立ち上がると、ドアのほうに行きかけ、立ち止まった。みるみる、いたずらな笑みがロパの顔にうかんだ。ロパは、チキンバッファローのあたまをひろい上げると、そうっとあたまの上にかぶった。。。


Happy New Year! いい丑年がみんなに来ますように。

 

Posted on Friday, February 6, 2009 at 04:26PM by Registered CommenterNumber One Squid | Comments Off